*[科学] 南極 楽園、いつまでも 生態系脅かす環境汚染

魚眼レンズで見た南極の夏の空。太陽は一日中沈まず、夜は地平線を横に移動する。レンズの特性で円を描くように見える=昭和基地で、1時間ごとに24回多重露光

生まれたばかりのウェッデルアザラシの赤ちゃん=昭和基地の沖で

営巣地で卵を温めるアデリー・ペンギンたち=昭和基地の南20キロのラングホブデで

真っ青な空を舞うユキドリ=昭和基地の沖で

 長い越冬を終え、南極に再び夏が訪れた。沈むことのない太陽は凍った海を解かし、動物たちを優しく照らしている。

 氷上で腹ばいになってカメラを構えると、アザラシの赤ちゃんが私をじっと見ている。ビロードのような産毛に包まれ、丸い瞳を見開いたかと思うと、やがて母親にすり寄って眠ってしまった。

 雪が消えた海べりの丘では、数百羽のペンギンが羽を寄せ合うように集まり卵を温めている。

 南極のきびしい自然の中で、一生懸命に子育てをする動物を撮影していると、地球が命を育んでいることを実感する。

 19世紀に始まる探検時代、ペンギンは食料や船の燃料にされ、アザラシも毛皮や油脂の資源として乱獲された。科学調査の時代になっても、無計画な捕獲が続き、ペンギンの卵のオムレツや、アザラシのステーキが食卓に並んでいた。

 保護が始まったのは、南極条約ができた1960年代からだ。科学調査を除き、捕獲は禁じられたが、それでも安泰とはいえない報告が各地から聞こえてくる。

 今夏、米マクマード基地近くのロス海に現れた巨大氷山がペンギンの暮らしを脅かしている。氷山は東京都の1.5倍ほどの広さ。大陸から張り出すロス棚氷が崩れたもので、原因として地球温暖化ガスの影響が疑われている。

 その氷山に邪魔をされ、ペンギンたちは小魚などの獲物にありつくのに、100キロ以上の遠回りを強いられている。疲れた親鳥の多くは子育てをあきらめ、数万羽のひなが餓死する恐れがあるという。

 ロス海周辺では80年代に、ペンギンやアザラシからポリ塩化ビフェニール(PCB)などの合成化学物質が検出され、基地公害が問題になっている。昭和基地でも雪が解けてできた小川が廃液や油で汚され、下流でペンギンが休んでいるのを見かけた。

 南極に暮らして1年。ここにも環境汚染の波が押し寄せているのを感じている。 (写真と文・武田剛)

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2005年07月31日10時07分 asahi.com