*[科学]南極ごみ、難問山積み

バッテリーやタイヤ、無限軌道(キャタピラー)などの廃棄されたごみがいたるところに散らばっていた=昭和基地沖のアンテナ島で、武田写す

 日本の南極観測隊が廃棄物の後始末に頭を悩ませている。毎年続く昭和基地の拡張で新たなごみが増えたうえ、増設工事に人手を取られ、ごみの撤去作業が追いつかないためだ。観測隊は今後4年間で撤去する方針だが、内陸の無人基地などを含めると、さらに膨大な量のごみが放置されている。地球環境を見守る観測が始まって約半世紀。南極観測のあり方に深刻な問題を投げかけている。

 真夏の昭和基地で、解けた雪の中からごみの山が姿を現した。廃棄車両やドラム缶、廃材。基地北側の斜面からは、埋めた廃棄物が崩れ、海にぷかぷか浮いている。

 のぞき込むと、古びた四輪駆動車が見えた。タイヤなどが突き出し、1台が丸ごと埋まっている。水たまりには赤い廃液がしみ出している。土をほじくり返すと、長靴やソファなどの生活用品までが詰まっていた。

 「目隠しの盛り土がしてあり、日本なら悪質な違法投棄です。こんなに汚い基地だとは思わなかった」。国内では海上保安官として海洋投棄などを取り締まる宮崎健治隊員(41)は落胆する。

 今年は雪解けが早く、昨年は雪に隠れていた廃棄物が顔をのぞかせたのだ。ごみ捨て場は幅100メートル、奥行き30メートル、高さ3メートル。対岸の小島には、さびた20台ほどの雪上車やバッテリーが散らばっている。ペンギンやアザラシに悪い影響を与えないか心配だ。

 これらの廃棄物は1957年の1次隊から、たまったものだ。ごみの持ち帰りは91年に始まった。放置や投棄を禁止した「環境保護に関する南極条約議定書」が発効した98年からは、5年間で500トンを撤去したが、片づけ切れなかった。

 観測を行っている国立極地研究所(東京都板橋区)は、現在の残置廃棄物を340トンと見積もり、これを撤去すればごみ問題は解決するとしている。しかし埋められたごみなどは含まれておらず、総量はさらに膨れあがりそうだ。

 今年持ち帰る廃棄物200トンの大半は、45次隊でただ一人の環境担当、岡江真一隊員(37)が梱包(こんぽう)した。「施設建設と同じように、ごみ処理にも具体的な計画を立て、十分な人手を確保してほしい」と訴える。帰国を前に1日15時間の作業が続く。

■各国基地に汚染の不安

 内陸の「みずほ」「あすか」の両無人基地に残るごみも大きな課題だ。

 昨年8月、みずほ基地を訪ねると観測用の鉄塔や廃棄車両が、氷上に放置されていた。1000キロ内陸のドームふじも、無人になる。3基地について、極地研は雪面に露出した車両などは撤去するが、雪に埋まる建物は、掘る時に強風で飛散しかねないとして、放置する。

 南極には27カ国が70以上の基地を設けてきたが、どこも程度の差はあれ汚染の悩みを抱える。

 特に深刻なのは、旧ソ連の崩壊で、廃棄物の回収費用にも事欠くロシアのベリングスハウゼン基地だ。燃料タンクやパイプラインなどが大量に野ざらしになっている。

 近年、各国基地に環境対策を強く求める声が環境保護団体の間に高まり、01年からこのロシア基地の大掃除に乗り出すグループも現れた。世界で初めて、南北の両極点に徒歩で到達した英国の探検家ロバート・スワン氏が主宰する「インスパイア!」で、日本を含む約20カ国のメンバーが参加。これまでに約1000トンを運び出した。

 南極で各国基地を監視してきたグリーンピースの日本支部佐藤潤一キャンペーン部長は「長年の廃棄物の放置は許しがたい。観測を継続するには、すべて持ち帰ることが原則だ。昭和基地は一般の目にさらされないため、第三者機関が調査すべきだ」と話している。

■処理の先送り、しない姿勢で

 国立極地研究所の寺岡伸章・事業部長の話 (南極条約議定書を受けた)国内法「南極地域の環境の保護に関する法律」が施行された98年以前の廃棄物については、法律の適用外だが、好ましくないことは事実だ。当時の環境意識の低さや、観測船が毎年確実に基地へ接岸できなかったことから、廃棄物の持ち帰りについて、あまり配慮されていなかった。今後はごみ処理を先送りしない方針で臨みたい。

〈キーワード:南極の日本基地〉 昭和基地は観測活動の中心で、57年に東オングル島に完成。1次隊では四つの建物に11人が越冬した。現在約50の施設がある。越冬は40人、夏は100人以上が活動する。観測船「しらせ」が年に1回訪れ、食料や建設資材など約1000トンを運ぶ。

 雪氷や地学の観測拠点として、内陸に3基地がある。ドームふじには11の施設があり、深さ3000メートルの氷床を掘削中。みずほに12、あすかに7の施設がある。 (南極支局=武田剛)



2005/07/31(日) 18:18:41

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