家族や住民への影響、国は70年代に認識 アスベスト

 アスベスト石綿)を扱う工場で働く従業員の家族や周辺住民への健康被害について、旧労働省が76年の通達で、英国の論文を引用するなどして危険性を指摘していたことが20日、衆院厚生労働委員会石綿問題の集中審議で明らかになった。72年の国会審議では、旧厚生省が飛散の可能性がある場合の周辺住民への検診の必要性にも言及していた。

 周辺住民らへの影響の可能性を国が30年以上前に認識していたことを裏付けるものだが、国が石綿の原則使用禁止に踏み切ったのは04年。それまでは、労働安全衛生上の対策が中心で、西博義・厚労副大臣は「事実をわかりながらフォローができていなかった。決定的な失敗だったのではないかと個人的には考えている」と国の対応の不備を認めた。

 通達内容は社民党阿部知子議員が指摘した。「石綿粉じんによる健康障害予防対策の推進について」の表題で、都道府県労働基準局長あてに出された。

 前年の75年に特定化学物質等障害予防規則が改正され、建設現場での石綿の吹き付け作業を禁止するなど規制が強化されたのを受け、事業所への石綿の有害性の周知や健康障害への防止措置を求めるものだった。

 その際、65年に発表された英国の論文を関係資料として紹介。ロンドンの病院にかかっていた中皮腫(ちゅうひしゅ)患者で、追跡調査できた76人のうち51人が石綿に関連。31人が工場労働者や関係者、9人はその家族や親類で、11人が周辺居住者だったという内容だ。

 さらに通達では、石綿に汚染された作業着での二次被害にも触れ、「家庭に持ち込むことにより、その家族にまで災いの及ぶ恐れがある」と指摘し、保管の徹底なども求めていた。

 一方、72年の国会審議については共産党の吉井英勝議員が指摘。衆院科学技術振興対策特別委員会で、大阪の石綿製造工場で従業員に肺がんが多発している問題が取り上げられた際に、周辺住民への粉じん被害について旧厚生省公衆衛生局長が、「問題がそういうように発展する可能性は防がれていると思うが、あれば一般住民の検診について考慮する必要がある」と答弁していた。