アスベスト問題、住宅は大丈夫か」、専門家に聞く

「静かな時限爆弾」といわれるアスベスト石綿)による健康被害の問題が連日のように新聞やテレビをにぎわせている。
アスベストを含む建材を使った住宅に不安はないのか?
家を増改築したり、解体したりするとき気をつけるべきことは何か?
室内空気汚染のオーソリティーである国立保健医療科学院の池田耕一氏に聞いた。

アスベストによる健康被害のメカニズム

――まずアスベストに起因する健康被害とそのメカニズムについて簡単に教えてください。

池田:一番ひどいのが「アスベスト肺」といわれるものです。肺の中の肺胞にアスベストが詰まって呼吸できなくなってしまう。アスベストに限らず石炭や粉塵でも起こります。これはアスベスト鉱山で働いていた労働者の方くらい大量に被爆(ひばく)しないとならないので、まあ、一般的には心配はありません。

次に結構な被爆を受けた場合に起こるのが、今回問題になっている悪性中皮種です。この病気自体は非常に珍しいものなのですが、アスベスト被爆した人は発病する割合が高い。アスベストと中皮種はその因果関係を証明しやすいので、問題になった面もあると思います。

なぜアスベストで中皮種になるのかというメカニズムはまだ完全には明らかになっていません。しかし、ある確率ですが発症することがあるのです。しかも、その潜伏期間が30年から40年と非常に長い。

アスベストというのは鉱物で非常に安定的な物質です。火で熱しても変わらないし、硫酸をかけても大丈夫というものなので、人間の身体の中に入ったら長い間残留して“悪さ”をする。これほど安定したものでなければ30年もすれば分解されてしまうか、体外に排出されてしまうわけです。

――どんな形でどのくらい体内に入ると危険なのですか?

池田:「どんな形で」という観点でいえば、まず気をつけるべきは「呼吸器系」から体内に入った場合だということ。

以前はアスベストというのは全く人畜無害と考えられていて、聞いたところによると戦時中の食料の乏しい時代には小麦にアスベストを混ぜて食べるとお腹が膨れるということで炒めて食べたと。そんなこともやっていたようです。知らないことは恐ろしいという典型かもしれませんが、心配すべきは肺などの「呼吸器系」に入ってしまうことで、まあ消化器系に入る分にはそれほど大きな心配はないのです。

量的にどのくらい被爆したら発病するのかという確たる目安は残念ながらありません。感覚的に言えば、数年オーダーで日常的に暴露すると発病するというイメージですね。

一般生活環境の目安でいえば、環境庁の基準で「1リットル当たり10本」というものがあります。わたくしどもの建築衛生部で実施した事務室内などにおける測定結果では、基準を上回っているのは「アスベストを使用して工事をしている空調機械室の中」だけで、そっとしておく分にはそれほど高い濃度にはならない。まして一般の住宅であれば、あまり心配しない方がいいですね。

■住まいの中にあるアスベストへの対策

――これだけ報道されると、家の中にアスベスト建材はないのか、あったとしたら悪影響はないのかが気になります。どういう点に気をつけたらよいのでしょう?

池田:一番いけないのは、気持ちが悪いからといってアスベストをあわててはがしてしまうことですね。しかもシロウト工事で本人がはがしてしまうなどというのはもってのほかです。

もし仮にアスベストを見つけたとしても、あるいは日曜大工などによって(アスベスト建材を使って)自分でつくっていたとしても、それをはがそうなどとは思わないように。そしてできるだけこすったり、振動を与えたりしないようにする。気をつけるとしたら、こういったことでしょう。

吹き付けアスベストなどは確かにあると気持ちが悪いでしょうが、そっとしておく分には実はそれほど大きな心配にはなりません。アスベストが吹き付けてある劇場の屋根裏の「キャットウォーク」で実際に濃度を測定したこともありますが、十分に基準値を下回る結果でした。そっとしておけば大丈夫なのです。

アスベストを含んだ建材があること自体は大きな問題ではないと認識することが大事だと思います。その辺を冷静に考えていただきたい。過剰反応して「気持ちが悪いから取ってしまおう」などとは考えないことです。

■詳しくは、こちら「nikkeibp.jp SAFTY JAPAN 2005」サイトでご覧になれます。

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2005年07月29日16時35分 asahi.coma